相続について考える上では、相続税や相続争い以外にもお墓をどうするのかについても心配ではないでしょうか。
お墓や仏具、納骨堂、墓石などの祭祀(さいし)財産をすでにお持ちの方は悩まれることも少ないかと思いますが、これらの祭祀財産をお持ちでない方は「何を準備するのがいいのか」「どこで準備するのがいいのか」疑問に思われたことがないでしょうか。
相続が発生すると限られた時間の中で様々な相続手続きに奔走することを強いられ、大変な相続手続きのなかでお墓や仏具、納骨堂まで選ぶことは大きな負担となることでしょう。
祭祀財産については相続税が非課税とされていますので、生前に準備しておくことでのこされる遺族の方々の負担を減らすことに加えて、相続税の節税も可能となります。
どこかのタイミングで購入するものが祭祀財産ですので、今のうちに正しい税金知識をもとに生前に準備しておくことを検討してみてはいかがでしょう。
お墓や仏具、納骨堂、墓石などの祭祀財産に関する相続税の取扱いついて正しく理解し、相続税や相続手続きの負担が少しでも軽減できるようなアドバイスをしていきます。
祭祀(さいし)財産は相続税がかからない
祭祀(さいし)財産とは祖先を祀るための財産のことで、代表的なものには仏壇、位牌、墓所、墓石などがあります。
通常、相続人は被相続人(亡くなった方)の所有していたすべての財産と債務(借金などのマイナスの財産)を承継することになりますが、民法897条で祭祀財産については祭祀主宰者が承継することとされています。
根拠法令(民法第996条)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
根拠法令(民法第997条)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
つまり、民法上、祭祀財産については一般の相続財産とは区別され、相続分や遺留分の算定対象から外されることとされています。
また、祭祀財産については日常的に礼拝尊崇されているものであり、公益性、社会政策的見地、人間感情または国民感情を考慮して相続税が非課税とされています。
相続税は被相続人(亡くなった方)が所有していたすべての財産にかかる税金ですが、一部の財産については非課税とされています。
根拠法令(相続税法第12条第1項第2号)
次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。
二 墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
では、相続税が非課税とされる墓所、霊びょうとは具体的にどのようなものでしょうか。
まとめてみましたので下記の表をご覧ください。
相続税が非課税となる墓所、霊びょうの具体例 |
墓地
墓石
墓碑
墓標
御霊屋(おたまや)※先祖の霊などを祭っておく建物のことです。
埋棺
|
また、上記の墓所、霊びょうのほかに日常崇拝に使用している祭具についても相続税が非課税となります。
具体例はこちらです。
相続税が非課税となる祭具の具体例 |
庭内神し※屋敷内にある神の社や祠のこと。
神たな
神体※不動尊、地蔵尊、道祖神、庚申塔、稲荷などのこと。
神具
仏壇
位牌
仏像
仏具
古墳等
|
ただし、祭具については日常崇拝の用具として使用されていることが相続税が非課税とされる条件ですので、日常礼拝に使用されていない趣味、観賞用または商品等として投資の対象として所有しているものについては非課税とされませんので注意が必要です。
数年前に流行した「金のおりん」なんかが特にこれに該当し、実際に日常崇拝の用具として使用していれば非課税なのですが、高価なおりんなのでといって大事に保管していると相続税が課税されることになります。
金のおりんは節税対策になるのか?>>
死亡後にお墓を購入した場合の相続税の計算方法
相続税は被相続人が所有していたプラスの財産からマイナスの財産を控除した金額からさらに基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を控除した金額にかかる税金です。
プラスの財産とマイナスの財産の具体例はこちらです。
プラスの財産 |
マイナスの財産 |
現金・預貯金
株式・投資信託
土地・建物
貴金属・書画骨董品
生命保険金・死亡退職金
※それぞれ500万円×法定相続人の数の非課税枠あり |
借入金
未払公租公課
未払医療費
葬儀費用・火葬代
お布施
|
ここで気になるのが葬式費用の範囲ですが、相続税法基本通達では相続税の計算上、債務控除としてマイナスできる葬式費用について下記のように規定しています。
根拠法令(相続税法基本通達13-4)
法第13条第1項の規定により葬式費用として控除する金額は、次に掲げる金額の範囲内のものとする。
(1) 葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うものにあっては、その両者の費用)
(2) 葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
(3) (1)又は(2)に掲げるもののほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの
(4) 死体の捜索又は死体若しくは遺骨の運搬に要した費用
日本で一般的に行われている葬式は仏式、神式、キリスト教式で、宗教ごとの様式の違いだけでなく、身内だけで行うか地域共同体の協力で行うかなど地域や家庭ごとにその様式が異なります。
そのため、相続税の計算上マイナスできる葬式費用の範囲は上記の相続税法基本通達13-4を参考にしつつ、記載のない項目については宗教や地域的慣習などをもとに個別的に判断する必要があります。
ここまでは相続税の計算上マイナスできる葬式費用について具体的に解説してきましたが、逆に葬式費用としてマイナスできないものについても規定されています。
具体的にはこちらです。
根拠法令(相続税法基本通達13-5)
次に掲げるような費用は、葬式費用として取り扱わないものとする。
(1) 香典返戻費用
(2) 墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
(3) 法会に要する費用
(4) 医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用
(1)の香典返礼費用が葬式費用としてマイナスできない理由ですが、葬式に際して会葬者から香典を受け取ることが一般的ですが、この香典については社会通念上相当の金額であれば相続税や贈与税が課税されないこととされています。これに対応して、香典返礼費用はマイナスできないこととなっています。
(2)の墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料については墓碑や墓地が相続税の非課税財産とされていることに対応して葬式費用には含まれないこととなっています。そのため、相続後に支払った墓碑や墓地の購入費用は相続税の計算上マイナスできないことになります。
また、注意したいのが墓碑や墓地を生前に購入していたが、代金が未払いだった場合や分割払い、霊園ローンのような借入金で購入していた場合です。
このような場合には購入した墓碑や墓地自体は相続税の非課税財産となりますが、これらの購入に関する未払金や借入金については相続税の債務控除の対象となりませんので注意が必要です。
葬式費用はどこまでマイナスできるのか?>>
お墓は生前に購入すると相続税の節税になる
以上のようにお墓や仏具、納骨堂、墓石などの祭祀(さいし)財産は相続税が非課税とされています。
そのため、生前にこれらの祭祀財産を購入しておいた方が相続後の遺族の手間を軽減することができ、さらには相続税を安くすることが可能となります。
では、実際に生前にお墓を購入しておくのと、相続後にお墓を購入するのとではどのくらい相続税が異なるのでしょうか。
被相続人の財産は2億円で相続人は子供2名、墓地と墓石の購入代金が合計300万円の場合で検証してみました。
項目 |
相続後にお墓を購入 |
生前にお墓を購入 |
相続税の対象となる財産 |
2億円 |
1億9700万円 |
相続税 |
3340万円 |
3250万円 |
差額(節税効果) |
90万円 |
このように生前にお墓や仏具、納骨堂、墓石などの祭祀(さいし)財産を購入しておくと相続税の節税が可能となります。
もちろん、具体的にいくら節税できるのかは財産額や祭祀財産の購入額によって異なってきます。
お墓や納骨堂は生前購入が圧倒的にお得!!>>
まとめ
生前にお墓や仏具、納骨堂、墓石などの祭祀(さいし)財産を準備すると税金が安くなることがおわかりいただけましたか?
「生前にお墓を買うなんて気が進まない」
と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、自分や家族が亡くなる前に準備する生前墓は「寿陵」といわれ長生きや子孫繁栄といった縁起のいいおこないとされています。
縁起のいいおこないをしながら家族の負担を減らし、相続税の節税も可能になりますので、是非生前から準備することを検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、投資目的の祭具購入は非課税の対象となりませんのでくれぐれもご注意を!
愛知県名古屋市を拠点に活動する相続専門家集団レクサーの代表税理士。
20歳の頃、実家が相続税で失敗したことをきっかけに相続税専門の税理士を目指し、26歳で開業。
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