未成年の子供が相続人になったら遺産分割や相続手続きはどうするの?
高齢化社会が進んだことで「老老相続(ろうろうそうぞく)」という言葉ができました。
これは、亡くなった方の遺産を高齢の相続人が引き継ぐことを意味し、相続実務の現場でもこの老老相続の割合が高いのが現実です。その反対側のケースで20歳未満の未成年者が相続人となるケースもあります。
この記事では、相続人の中に未成年者が含まれる場合の相続手続き、遺産分割のポイントや相続税を計算する上での特典をお伝えしていきます。
正直なところ、相続専門の仕事をしていても老老相続のケースが圧倒的に多く、未成年者が相続人になるケースはめったに遭遇しません。未成年者が相続人になる場合には、「特別代理人(とくべつだいりにん)」といって未成年者に代わって遺産分割協議や相続手続きを行う人を決める必要があります。法律のルールを無視して相続手続きを進めてしまうとその手続きが無効になったり、思わぬ落とし穴にはまってしまう恐れがありますので注意が必要です。
未成年者が相続人になるのはどんなとき!?
一般的には、すでに成人した人が相続人になるケースが多いのですが、場合によっては未成年者が相続人になることもあります。例えば、こんなケースです。
①被相続人が若くして不慮の事故や病気で亡くなった
②被相続人が相続税対策で未成年の孫と養子縁組していた
③被相続人の子供が先に亡くなっていて、孫が代襲相続人となった
未成年者は遺産分割協議に参加できない!!
相続が発生すると相続人同士で誰がどの遺産を受け継ぐのかを決めて、遺産分割協議を行います。
しかし!
未成年者はこの相続手続きに必要不可欠な遺産分割協議に参加することができないんです!
一般的に未成年者は法律行為をするための十分な判断能力が備わっていないという理由から契約手続きや相続手続きをできないと法律で決められています。そこで、未成年者については代理人をたてて法律行為をすることになります。
例えば、契約手続きをするような場合には親権者がその未成年者の代理人になります。
では、ここで問題です!
旦那が亡くなった。相続手続きで母親は未成年の子供の代理人になれる。〇か×か?
答えは...
×です!
未成年者と親権者である母親が共同相続人として相続の当事者同士となっている場合には母親は子供の代理人になることはできません。
このようなケースのことを利益相反(りえきそうはん)といって、法律では母親が自分の取り分(利益)を優先して子供の取り分が少なくなってしまう恐れがある行為を禁じているのです。このような場合には、相続人ではない親族や弁護士に特別代理人として未成年者の代わりをしてもらうことになります。
もちろん、親権者が未成年者である子供の特別代理人になれるケースもあります。
例えば、父親が先に亡くなっていて、子供が祖父の相続人となるようなケースです。このようなケースであれば未成年者の母親は相続人ではないため利益相反の恐れがないため特別代理人になることができます。
このように相続の場合には親権者が代理人になれる場合となれない場合があり、ケースによってとるべき対応が異なってくるので注意が必要です。
では、こんなケースはどうでしょう?
義理の父が亡くなった。相続人は義理の姉と先に亡くなった旦那の子供3人(未成年)。
母親である私は子供たち全員の代理人になれるの?
答えは、なれません!!
このような場合には、子供のうちだれか一人の代理人にしかなることができず、残りの二人については自分以外の人に代理人になってもらうことになります。
これは、一人の人が複数の子供の代理人を兼任してしまうと子供たちの間で遺産の取り分に多い・少ないの不公平が生じる恐れがあるからです。いわば利益相反の可能性を回避するためです。
なお、10代で結婚した人については20未満であっても成年として扱われることになるので特別代理人をたてる必要はありません。ちなみに、これを「成年擬制(せいねんぎせい)」といい、仮に離婚や死別によって婚姻が解消されたとしても成年擬制の効果は消滅しません!
特別代理人を選任する手続きはどこでどうやってやるの?費用はいくら?
特別代理人の選任手続きは相続人となる未成年者の住所地の家庭裁判所で行うことになります。
申し立てに必要な書類は次の書類です。
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 親権者又は未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍の附票
- 遺産分割協議書の遺産分割案
- 連絡用の郵便切手(管轄する裁判所によって異なります。)
※追加書類の提出を求められることもあります。
特別代理人選任申立書には子供一人につき800円分の収入印紙を貼り付けます。
遺産分割協議書の作成方法とポイント
相続人の中に未成年者がいる場合には遺産分割協議書の作成にあたっても注意が必要です。
通常の相続の場合、相続人全員で遺産分割協議書に署名して印鑑登録のされた実印で押印をすることになります。
未成年者がいる場合には、未成年者の部分については特別代理人が署名押印をします。
未成年者本人が署名押印したり、特別代理人以外の人が署名押印してしまうと、その遺産分割協議書は無効となってしまいますので注意が必要です。
また、特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てる際には遺産分割案を提出するのですが、この遺産分割案に不備がある場合には特別代理人の選任自体が認められず、遺産分割の手続きが滞ってしまうこともあります。そのため、遺産分割案に不備がないように、家庭裁判所に認められやすい遺産分割案を考える必要があります。
家庭裁判所に認められやすい遺産分割案ってどんなもの?
具体的には、未成年の相続人が法定相続分以上の遺産を引き継ぐ遺産分割案です。
遺産分割の内容が未成年の相続人にとって不利な条件のものの場合、よっぽどの理由がなければ家庭裁判所はその遺産分割案を認めてくれません。
とは言いつつも、杓子定規にいかないケースもあります。
例えば、遺産のほとんどが自宅であるといった場合や、未成年の相続人の養育費にお金がかかるような場合です。
遺産のほとんどが自宅であるような場合には、遺産分けのために自宅を売ってしまったのでは今後の生活ができなくなってしまいます。また、未成年の子供の養育費がこれからもかかるような場合には、親権者が遺産を相続してお金の管理を行った方が好都合なこともあります。
このように特別な事情がある場合には、遺産分割協議書や特別代理人選任申立書に「生活費、養育費に充てるために未成年の相続人の親権者に遺産を相続させる」といった説明書きをすることで、未成年の相続人にとって不利な遺産分割案ではないことをアピールすることができます。こうしたひと手間を加えることで、家庭裁判所に遺産分割案が認められやすくなります。
未成年者がいる場合には相続税の特典がある!
未成年者が相続で遺産を取得した場合には「未成年者控除」という税金上の特典があります。
未成年者控除とは、その未成年者の支払う相続税額から「(20歳-未成年者の満年齢)×10万円」を差し引くことのできる制度です。
例えば、1歳3か月の子が相続人となった場合には未成年者控除額が「(20歳-1歳)×10万円」の190万円となります。この未成年者控除額190万円を本来支払う相続税額がら差し引くことになります。
相続の実務をしているとこんなケースもあります。
このように、未成年者控除額に引ききれなかった余りがある場合にはこの余りの部分を扶養義務者の支払う相続税から差し引くことができます。
なお、成年擬制された20歳未満の人についても未成年者控除が適用できますので、間違いのないように注意が必要です。
円満相続やスムーズな相続手続きをするためにも相続問題に詳しい弁護士や司法書士に手続きを依頼するようにしましょう。
また、相続税対策で養子縁組をお考えの方は相続税専門の税理士に相談することをオススメします。
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この記事を書いた人
相続専門税理士 伊東 秀明
愛知県名古屋市を拠点に活動する相続専門家集団レクサーの代表税理士。 20歳の頃、実家が相続税で失敗したことをきっかけに相続税専門の税理士を目指し、26歳で開業。
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